・恒等式と方程式
等式 \(x^2-2x+5=(x-1)^2+4\) は、\(x\)にどのような数を代入しても成り立ちます。このように含まれている文字がどのような値をとっても、その両辺の値が存在する限り、常に成り立つ等式をそれらの文字についての恒等式(こうとうしき)といいます。
一方、等式 \(x^2-2x-3=0\) は、\((x+1)(x-3)=0\) なので、\(x=-1,3\)のときにだけ成り立つ等式で、このような等式を方程式といい、恒等式ではありません。
・恒等式に関する定理
恒等式に関する定理を学ぶ前に、次の定理を紹介します。
複素数係数の\(n\)次方程式
\(a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+・・・\)\(+a_1x+a_0\)\(=0\) (\(a_n≠0\))
は複素数の範囲で重複を含めてちょうど\(n\)個の解をもつ。
定理の内容自体は難しくありません。
1次方程式なら解は1個、2次方程式なら解は2個、3次方程式なら解は3個・・・
もつということです。
重複を含めてという意味は、例えば2次方程式 \((x-1)^2=0\) だと、\(x=1\)という重解を2つ分としてカウントするということです。
(証明は難しいので省略します)
では本題に入ります。
\(P(x),Q(x)\)を\(x\)の整式とする。
①\(P(x)=0\) が恒等式 \(\leftrightarrow\) \(P(x)\)の各項の係数は\(0\)である。
②\(P(x)=Q(x)\) が恒等式 \(\leftrightarrow\) \(P(x),Q(x)\)の次数は等しく、\(P(x),Q(x)\)の同じ次数の項の係数は一致する。
\(x\)にどんな数を代入しても成り立つので、①②(特に両辺の係数が一致する②)については当たり前と思う方もいると思います。
(定理1の①の証明)
\(→\) の証明
\(P(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+・・・\)\(+a_1x+a_0\)\(=0\) について
\(a_n,a_{n-1},・・・,a_1\) の少なくとも1つが\(0\)でないと仮定すると
代数学の基本定理より、等式を満たす\(x\)は\(n\)個以下となり恒等式とならず矛盾。
よって、\(a_n,a_{n-1},・・・,a_1\)はすべて\(0\)。
したがって\(a_0\)も\(0\)。
\(←\) は明らかに成り立つ。
(定理1の②の証明)
\(→\) の証明
\(P(x)=(n+1\)次以上の項\()\)\(+a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+・・・\)\(+a_1x+a_0\)
\(Q(x)=b_nx^n+b_{n-1}x^{n-1}+・・・\)\(+b_1x+b_0\)
とする。
\(P(x)=Q(x)\)が恒等式なので、\(P(x)-Q(x)=0\) も恒等式。
よって
\((n+1\)次以上の項\()\)\(+(a_n-b_n)x^n\)\(+(a_{n-1}-b_{n-1})x^{n-1}\)
\(+・・・\)\(+(a_1-b_1)x+(a_0-b_0)\)\(=0\)・・・(A)
定理1の①より(A)の左辺の係数がすべて\(0\)なので
\((n+1\)次以上の項\()\)は\(0\)
\(a_n=b_n\) , \(a_{n-1}=b_{n-1}\) ,・・・, \(a_1=b_1\), \(a_0=b_0\)
よって\(P(x),Q(x)\)の次数は同じで、係数は一致。
\(←\) は明らかに成り立つ。
ともに\(n\)次以下の整式、\(P(x),Q(x)\)について
等式 \(P(x)=Q(x)\) が異なる\(n+1\)個の\(x\)の値について成り立つならば、等式 \(P(x)=Q(x)\) は\(x\)についての恒等式である。
(証明)
\(F(x)=P(x)-Q(x)\) とおくと、\(F(x)\)は\(n\)次以下の整式である。
\(P(x)=Q(x)\)を成り立たせる、異なる\(n+1\)個の\(x\)の値を、\(x_1,x_2,・・・,x_n,x_{n+1}\)とすると、これらは\(F(x)=0\)を成り立たせる。
このうち、\(x_1,x_2,・・・・,x_n\)について考えると因数定理(数Ⅱ)により
\(F(x)=K(x-x_1)(x-x_2)・・・\)\((x-x_n)\)
\(F(x)\)は\(n\)次以下の整式なので\(K\)は定数。
さらに\(F(x_{n+1})=0\) なので
\(F(x)=K(x_{n+1}-x_1)(x_{n+1}-x_2)・・・\)\((x_{n+1}-x_n)\)
\(x_1,x_2,・・・,x_n,x_{n+1}\)は異なる値なので、\(K=0\)
よって、\(x\)の値にかかわらず\(F(x)=0\) (\(F(x)\)は恒等的に\(0\))
よって、恒等的に \(P(x)=Q(x)\)
(例題)次の等式が恒等式になるように、定数\(a,b,c\)の値を定めよ。
\(x^2-3x+5=a(x-1)^2+b(x-1)+c\)
①係数比較法 ②数値代入法
があります。両方の解法で解いてみます。
(解答1 係数比較法)
(右辺)
\(=ax^2+(-2a+b)x+a-b+c\)
両辺の係数を比較して
\(a=1\), \(-2a+b=-3\), \(a-b+c=5\)
これらを解くと
\(a=1\), \(b=-1\), \(c=3\)
(解答2 数値代入法)
与式は恒等式なので、\(x=1,0,2\)を代入しても成り立つ。よって
\(3=c\), \(5=a-b+c\), \(3=a+b+c\)
これらを解いて、\(a=1\), \(b=-1\), \(c=3\)
今は3つの値についてのみ成り立つことが分かっているだけなので、\(a,b,c\)がこの値のときにちゃんと恒等式になるかどうか確かめます。(十分性の確認)
逆に、\(a=1\), \(b=-1\), \(c=3\)のとき
(右辺)
\(=(x-1)^2-(x-1)+3\)
\(=x^2-3x+5\)
よって恒等式となる。
※係数比較法と数値代入法は、解答が楽になりそうなほうを選んでください。
以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見て頂きありがとうございました。