数学的帰納法の仕組みついて見ていきます。
・数学的帰納法
\(n\)を自然数とするとき、
不等式
\(n!≧2^{n-1}\)・・・①
の証明方法は色々あると思いますが、このようなとびとびの値である自然数\(n\)に関する証明に有効な方法として数学的帰納法というものがあります。どのような方法かというと、まずスタートである\(n=1\)のとき正しいことを証明して、次に1つ前の自然数について成り立つならばその次の自然数についても成り立つことを示す方法です。このことを箇条書きすると
[2]\(n=k\) のとき①が成り立つならば(成り立つと仮定すると)、\(n=k+1\) のときも①が成り立つ。
となりますが、[1][2]のどちらも正しいことが証明できると
[1]より\(n=1\)で成り立つので[2]で\(k=1\)とすれば、\(n=2\) のときも成り立つ。
\(n=2\)のとき成り立つので、[2]より\(n=3\)でも成り立つ。
\(n=3\)のとき成り立つので、[2]より\(n=4\)でも成り立つ。
\(n=4\)のとき成り立つので、・・・・
とドミノ倒しのようにすべての自然数\(n\)で①が成り立つことを示すことができます。
実際に
\(n!≧2^{n-1}\)・・・①
を証明すると次のようになります。
[1]\(n=1\)のとき
(左辺)\(=1!=1\)
(右辺)\(=2^{0}=1\) より①は成り立つ。
[2]\(n=k\) (\(k=1,2,3,\cdots\)) のとき①が成り立つと仮定すると
\(k!≧2^{k-1}\)・・・②
であり、このとき
\((k+1)!-2^{k}\)
\(=(k+1)k!-2\cdot2^{k-1}\)
(②を使って \(k+1>0\) だから)
\(≧(k+1)2^{k-1}-2\cdot2^{k-1}\)
\(=(k-1)2^{k-1}≧0\)
より
\((k+1)!≧2^{k}\) (\(n=k+1\)でもOKということ)
[1][2]よりすべての自然数\(n\)について①が成り立つ。
(例題1)
自然数\(n\)について
\(S_n=1-\displaystyle\frac{1}{2}+\displaystyle\frac{1}{3}-\displaystyle\frac{1}{4}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{2n-1}-\displaystyle\frac{1}{2n}\)
\(T_n=\displaystyle\frac{1}{n+1}+\displaystyle\frac{1}{n+2}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{2n}\)
とする。\(S_n=T_n\) であることを証明せよ。
\(S_1=1-\frac{1}{2}\), \(T_1=\frac{1}{2}\)
\(S_2=1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}\), \(T_2=\frac{1}{3}+\frac{1}{4}\)
\(S_3=1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\frac{1}{5}-\frac{1}{6}\), \(T_3=\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}\)
となり確かに成り立ちます。規則性が見えにくいですが、自然数\(n\)の等式なので数学的帰納法で証明していきます。
(解答)
[1]\(n=1\)のとき
\(S_n=1-\displaystyle\frac{1}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}\)
\(T_n=\displaystyle\frac{1}{2}\)
だから、\(S_n=T_n\) は成立。
[2]\(n=k\)のとき (\(k=1,2,3,\cdots\))
\(S_k=T_k\) が成り立つと仮定すると
\(S_{k+1}=S_{k}+\displaystyle\frac{1}{2k+1}-\displaystyle\frac{1}{2k+2}\)
\(=T_{k}+\displaystyle\frac{1}{2k+1}-\displaystyle\frac{1}{2k+2}\)
\(=\displaystyle\frac{1}{k+1}+\color{blue}{\displaystyle\frac{1}{k+2}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{2k}+\displaystyle\frac{1}{2k+1}}-\displaystyle\frac{1}{2k+2}\)
(青色が\(T_{k+1}\)の一部で、両側を計算して)
\(=\displaystyle\frac{1}{k+2}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{2k}+\displaystyle\frac{1}{2k+1}+\displaystyle\frac{1}{2k+2}\)
\(=T_{k+1}\)
よって
\(S_{k+1}=T_{k+1}\) が成り立つ。
[1][2]よりすべての自然数で \(S_{n}=T_{n}\) となる。
(例題2)
すべての自然数\(n\)に対して、次の不等式が成り立つことを示せ。
\(1+\displaystyle\frac{1}{2}+\displaystyle\frac{1}{3}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{n}≧\displaystyle\frac{2n}{n+1}\)
(解答)
[1]\(n=1\) のとき
(左辺)\(=1\)
(右辺)\(=\displaystyle\frac{2}{2}=1\)
で不等式は成立する。
[2]\(n=k\) のとき (\(k=1,2,3,\cdots\))
\(1+\displaystyle\frac{1}{2}+\displaystyle\frac{1}{3}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{k}≧\displaystyle\frac{2k}{k+1}\)・・・①
が成り立つと仮定する。
このとき
\((\color{blue}{1+\displaystyle\frac{1}{2}+\displaystyle\frac{1}{3}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{k}}+\displaystyle\frac{1}{k+1})-\displaystyle\frac{2(k+1)}{k+2}\)
(①を使って)
\(≧\displaystyle\frac{2k}{k+1}+\displaystyle\frac{1}{k+1}-\displaystyle\frac{2(k+1)}{k+2}\)
\(=\displaystyle\frac{k}{(k+1)(k+2)}>0\)
ゆえに \(n=k+1\) のときも不等式が成り立つ。
[1][2]よりすべての自然数について不等式は成り立つ。
以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見ていただきありがとうございました。
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