まずは不等式の基本的な性質から見ていきます。(数Ⅰのところでも少し触れました)
以下文字はすべて実数とします。
・実数の大小関係
実数\(a,b\)について、「\(a>b\), \(a=b\), \(a<b\)」 のどれか1つの関係だけが成り立ちます。
・不等号\(≦,≧\)について
イコールつきの\(≦,≧\)について、例えば\(a≧b\)は「\(a=b\) または \(a>b\)」ということを表すので、どちらかが成り立っていればよいことになります。
よって、\(2≧2\) も \(3≧2\) も正しい不等式となります。
・不等式の基本性質
不等式には以下の性質があります。
② \(a>b\) \(→\) \(a+c>b+c\), \(a-c>b-c\)
③(A) \(a>b\) \(m>0\) \(→\) \(am>bm\), \(\displaystyle\frac{a}{m}>\displaystyle\frac{b}{m}\)
(B) \(a>b\) \(m<0\) \(→\) \(am\)\(<\)\(bm\), \(\displaystyle\frac{a}{m}\)\(<\)\(\displaystyle\frac{b}{m}\)
①\(a\)より\(b\)のほうが小さく、\(b\)より\(c\)のほうが小さいので、\(a\)と\(c\)を比べると\(a\)の方が大きくなります。
②は \(a>b\)は、天秤の片方に\(a\)、もう一方に\(b\)が乗っていて傾いているイメージです。両方に同じ数を足したり引いたりしても傾きは変わりません。
③(A)も同様です。同じ数(ただし正の数)で掛けたり割ったりしても傾きは変わりません。しかし同じ数(負の数)を掛けたり割ったりすると傾きは反対になります。(③(B), 不等号が入れ替わる)
(③(B)の例)
\(3>1\) の両辺に\(-2\)をかけると、\(-6<-2\)
\(2>-3\) の両辺に\(-1\)をかけると、\(-2<3\)
\(-2>-4\) の両辺に\(-3\)をかけると、\(6<12\)
負の数で割るときは、まず\(-1\)をかけると不等号が逆になり、つぎにその数の絶対値(正の数)で割ると不等号は変わらないので、結局全体としては不等号は入れ替わります)
以上のことから
\(a>b\) \(\leftrightarrow\) \(a-b>0\)
\(a=b\) \(\leftrightarrow\) \(a-b=0\)
\(a<b\) \(\leftrightarrow\) \(a-b<0\)
であることが分かるので、\(a,b\)の大小は\(a-b\)の符号によって決まることなります。よって\(a>b\)を証明する際には、\(a-b>0\)を示すことが基本となります。
・その他成り立つ不等式(不等式の基本性質から導かれるもの)
上記性質①~③を利用したり、両辺の差をとることで、次のことが成り立つことを示せます。
(和と差の大小関係)
(1-1)「\(a>b\), \(c>d\) \(\rightarrow\) \(a+c>b+d\)」
(1-2)「\(a>b\), \(c>d\) \(\rightarrow\) \(a\)\(-d\)\(>b\)\(-c\)」
(積と商の大小関係)
(2-1)「\(a>b\)\(>0\), \(c>d\)\(>0\) \(\rightarrow\) \(ac>bd\)」
(2-2)「\(a>b\)\(>0\), \(c>d\)\(>0\) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{a}{\color{red}{d}}>\displaystyle\frac{b}{\color{red}{c}}\)」
(逆数の大小関係)
(3-1)\(a>0\), \(b>0\)のとき 「\(a>b\) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{1}{a}\)\(<\)\(\displaystyle\frac{1}{b}\)」
(3-2)\(a<0\), \(b<0\)のとき 「\(a>b\) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{1}{a}\)\(<\)\(\displaystyle\frac{1}{b}\)」
丁寧な証明は例題に回すとして、それぞれのざっくりとした説明をします。
(和と差の大小関係)については、和は「大きいものどうしを足したもの>小さいものどうしを足したもの」、差は「大きいものから小さいものを引いたもの>小さいものから大きいものを引いたもの」となります。特に差については単純に辺々どうしを引いた「\(a\)\(-c\)\(>b\)\(-d\)」とはならないことに注意しましょう。
(積と和の大小関係)についてもほぼ同様です。積は「大きいものどうしを掛けたもの>小さいものどうしを掛けたもの」、商は「大きいものから小さいものを割ったもの>小さいものから大きいものを割ったもの」となります。これらのことは符号が全て正の場合で、他の場合にはまた違った結果になることにも注意です。
(逆数の大小関係)については、逆数をとると大小関係が入れ替わります。ただし\(a,b\)が同符号の場合で、異符号のときには大小関係は入れ替わりません。(例:\(-3<5\)のとき \(\displaystyle\frac{1}{-3}<\displaystyle\frac{1}{5}\))
(例題)次のことを証明せよ。
(1)\(a>b\), \(c>d\) \(\rightarrow\) \(a+c>b+d\), \(a\)\(-d\)\(>b\)\(-c\)
(2)\(a>b\)\(>0\), \(c>d\)\(>0\) \(\rightarrow\) \(ac>bd\), \(\displaystyle\frac{a}{\color{red}{d}}>\displaystyle\frac{b}{\color{red}{c}}\)
(3)\(a>0\), \(b>0\) または \(a<0\), \(b<0\) のとき 「\(a>b\) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{1}{a}\)\(<\)\(\displaystyle\frac{1}{b}\)」
(解答)
(1)
\(a>b\)より両辺に\(c\)を加えて、\(a+c>b+c\)・・・(1-①)
\(c>d\)より両辺に\(b\)を加えて、\(b+c>b+d\)・・・(1-②)
(1-①②)より、\(a+c>b+d\)
また\(c>d\)より両辺に\(-1\)を掛けると不等号が入れ替わり、\(-d>-c\)
先ほど示したことから、\(a>b\),\(-d>-c\)のとき
\(a-d>b-c\)
※両辺の差をとる方法をとると
\(a+c>b+d\)において
(左辺)ー(右辺)
\(=a+c-(b+d)\)\(=(a-b)+(c-d)\)\(>0\)
よって、\(a+c>b+d\)は成り立つ。
\(a-d>b-c\)において
(左辺)ー(右辺)
\(=a-d-(b-c)\)\(=(a-c)+(c-d)\)\(<0\)
よって、\(a-d>b-c\)は成り立つ。
(2)
\(a>b\)より、\(c(>0)\)を両辺に掛けて、\(ac>bc\)・・・(2-①)
\(c>d\)より、\(b(>0)\)を両辺に掛けて、\(bc>bd\)・・・(2-②)
(2-①②)より、\(ac>bd\)・・・(2-③)
(2-③)の両辺を\(cd(>0)\)で割って
\(\displaystyle\frac{a}{d}>\displaystyle\frac{b}{c}\)
※両辺の差をとる方法だと
\(ac>bd\)について
(左辺)ー(右辺)\(=ac-bd\)
ここで、\(a>b\),\(c>0\)から、\(ac>bc\)より
\(ac-bd>bc-bd=b(c-d)>0\) (\(b>0\),\(c-d>0\)より)
\(\displaystyle\frac{a}{d}>\displaystyle\frac{b}{c}\)について
(左辺)ー(右辺)
\(=\displaystyle\frac{a}{d}-\displaystyle\frac{b}{c}\)\(=\displaystyle\frac{ac-bd}{cd}>0\) (\(cd>0\)と、今示した\(ac>bd\)より)
(3)
\(a>0\), \(b>0\) または \(a<0\), \(b<0\) のとき
\(ab>0\)
\(a>b\) の両辺を\(ab(>0)\)で割ると
\(\displaystyle\frac{1}{b}\)\(>\)\(\displaystyle\frac{1}{a}\)
※両辺の差をとる方法だと
\(\displaystyle\frac{1}{a}\)\(<\)\(\displaystyle\frac{1}{b}\)について
(右辺)ー(左辺)
\(\displaystyle\frac{1}{b}-\displaystyle\frac{1}{a}\)\(=\displaystyle\frac{a-b}{ab}>0\) (\(ab>0\),\(a-b>0\)より)
以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見て頂きありがとうございました。