不等式の証明(拡張させる)

 

簡単な不等式を利用して、似たような複雑な不等式を証明する問題について見ていきます。((1)の誘導にのる問題)

 

(例題1)次の不等式を証明せよ。
\(-1<a<1\),\(-1<b<1\),\(-1<c<1\) のとき
(1)\(ab+1>a+b\) を証明せよ。
(2)\(abc+2>a+b+c\) を証明せよ。

 

 

(解答)

(1)は簡単です。定石通り(左辺)ー(右辺)で示します。

(1)
(左辺)ー(右辺)
\(=ab+1-a-b\)
\(=(a-1)(b-1)\)

条件より、\(a-1<0\),\(b-1<0\)だから
(左辺)ー(右辺)>0

よって、\(ab+1>a+b\)

 

(2)

(2)は(1)の不等式に似ているので、(1)を利用してみようと思います。(拡張する)
\(-1<bc<1\) なので、(1)の\(ab\)の部分の\(b\)を\(bc\)に置き換えることができます。すると\(abc\)の項を含む不等式ができます。

\(0≦|b|<1\), \(0≦|c|<1\) より、\(0≦|bc|<1\) だから、\(-1<bc<1\)

よって、(1)の\(b\)を\(bc\)に置きかえると

\(a・bc+1>a+bc\)

証明したい不等式に近づけるためにさらに(1)を利用します。
\(a,b,c\)の条件が同じなので、(1)より\(bc+1>b+c\)も成り立つのでこれを利用します。

また、(1)より
\(bc+1>b+c\) が成り立つので、\(bc>b+c-1\)

ゆえに
\(a+bc>a+b+c-1\)

したがって
\(abc+1>a+b+c-1\) であるから

\(abc+2>a+b+c\)

 

 

なお(2)も(左辺)ー(右辺)で解くことができます。その1例を挙げると

(左辺)ー(右辺)
\(=abc+2-(a+b+c)\)
\(=(ab-1)c+2-(a+b)\)・・・①

(ア)\(c<0\) のとき
\(ab-1<0\) , \(c<0\) より、\((ab-1)c>0\)
また、\(a+b<2\) より \(2-(a+b)>0\) なので ①\(>0\)

(イ)\(c>0\) のとき
(1)より、\(ab-1>a+b-2\) なので、\(c(ab-1)>c(a+b-2)\)だから
①\(>c(a+b-2)-(a+b-2)\)
\(=(c-1)(a+b-2)\)\(>0\) (∵ \(c-1<0\), \(a+b-2<0\) )

よって (左辺)ー(右辺)>0

 

 

(例題2)次の不等式を証明せよ。
(1)\(a≧b\), \(x≧y\) のとき \((a+b)(x+y)≦2(ax+by)\)
(2)\(a≧b≧c\), \(x≧y≧z\) のとき  \((a+b+c)(x+y+z)\)\(≦3(ax+by+cz)\)

 

 

(解答)

(右辺)ー(左辺)です。
因数分解して条件を使います。

(1)
(右辺)ー(左辺)
\(=2(ax+by)-(a+b)(x+y)\)
\(=ax+by-ay-bx\)
\(=a(x-y)-b(x-y)\)
\(=(a-b)(x-y)\)\(≧0\)  (\(a-b≧0\), \(x-y≧0\) より)

よって、\((a+b)(x+y)≦2(ax+by)\)
等号は、\(a=b\) または \(x=y\)のとき成立。

 

(2)

(1)を利用します。
(i)\(a≧b\), \(x≧y\) (ii)\(b≧c\),\(y≧z\) (iii)\(a≧c\), \(x≧z\)
の3つの場合について(1)で証明した不等式をたてます。
作った3つの不等式の辺々を足すと、(2)で証明したい右辺 \(ax+by+cz\) が表れるので、あとは証明したい左辺を作ります。

(1)と同様にして、(i)\(a≧b\), \(x≧y\) (ii)\(b≧c\),\(y≧z\) (iii)\(a≧c\), \(x≧z\) から、

\((a+b)(x+y)≦2(ax+by)\)・・・(i)  ((1)で証明した式そのまま)
\((b+c)(y+z)≦2(by+cz)\)・・・(ii)
\((a+c)(x+z)≦2(ax+cz)\)・・・(iii)

(i)~(iii)の辺々を加えて
\((a+b)(x+y)\)\(+(b+c)(y+z)\)\(+(a+c)(x+z)\)\(≦4(ax+by+cz)\)・・・(A)

(左辺を\(x,y,z\)それぞれ着目して展開し、整理すると)

(Aの左辺)
\(=(2a+b+c)x+(a+2b+c)x\)\(+(a+b+2c)z\)
\(=(a+b+c)x+(a+b+c)x\)\(+(a+b+c)z\)\(+ax+by+cz\)
\(=(a+b+c)(x+y+z)\)\(+ax+by+cz\)

よって(A)は
\((a+b+c)(x+y+z)\)\(+ax+by+cz\)\(≦4(ax+by+cz)\)
であるから

\((a+b+c)(x+y+z)\)\(≦3(ax+by+cz)\)

等号成立は 「\(a=b\) または \(x=y\)」かつ「\(b=c\) または \(y=z\)」 かつ 「\(a=c\) または \(x=z\)」のときであり、まとまると、\(a=b=c\) または \(x=y=z\)のとき。

 

※等号成立について
(i)~(iii)の不等式のすべてが等号成立するときなので、
(ア)「\(a=b\) または \(x=y\)」かつ (イ)「\(b=c\) または \(y=z\)」 かつ (ウ)「\(a=c\) または \(x=z\)」のとき になる。
3つ目の条件(ウ)から、\(a=c\)のときは \(a≧b≧c\) より \(a=b=c\)。\(x=z\)のときも、\(x≧y≧z\) より \(x=y=z\)。よって(ウ)は「\(a=b=c\) または \(x=y=z\)」となる。(これは(ア)(イ)も満たすのでこれが等号成立の条件となる)

 

 

なお(例題2)の不等式は、チェビシェフの和の不等式とよばれます。その一般形は

\(a_1≧a_2≧・・・≧a_n\), \(b_1≧b_2≧・・・\)\(≧b_n\) のとき

\((a_1+a_2+・・・+a_n)\)\((b_1+b_2+・・・+b_n)\)
\(≦n(a_1b_1+a_2b_2\)\(+・・・+a_nb_n)\)

(等号成立は \(a_1=a_2=\)\(・・・=a_n\) または \(b_1=b_2=\)\(・・・=b_n\) のとき)

となります。

 

 

 

 

 

以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見て頂きありがとうございました。

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