絶対値を含む不等式の証明

絶対値を含んだ不等式の証明問題について見ていきます。
その前に絶対値の定義や、性質について見ていきます。

 

・絶対値の定義・性質
実数\(a\)について、数直線上で原点\(O\)から座標が\(a\)である点\(A\)までの距離を\(a\)の絶対値といい、\(|a|\)で表します。\(a\)の正負で場合分けすると次のように定義されます。

(絶対値の定義)
\(a≧0\)のとき、\(|a|=a\), \(a<0\)のとき、\(|a|=\)\(-\)\(a\)

距離なので、座標が負の値の場合には記号外す際にマイナスがつきます。

 

また絶対値について以下の性質が成り立ちます。

①\(|a|≧0\) (距離は\(0\)以上)
②\(|a|=|-a|\) (原点から\(a\),\(-a\)までの距離は同じ)
③\(|a|≧a\), \(|a|≧-a\) (絶対値をつけた\(|a|\)は、つけない\(a,-a\)と同じか、それより大きい)
④\(|a|^2=|a^2|=a^2\) (2乗の性質)
⑤\(|a||b|=|ab|\), \(b≠0\)のとき \(\displaystyle\frac{|a|}{|b|}\)\(=|\displaystyle\frac{a}{b}|\) (くっつけたり分けたりできる)

すべて、\(a≧0\), \(a<0\);\(b≧0\), \(b<0\) で場合分けすることで証明できます。

 

\(c>0\)のとき
⑥\(|a|=c\) \(\leftrightarrow\) \(a=±c\)
⑦\(|a|<c\) \(\leftrightarrow\) \(-c<a<c\)
(\(|a|≦c\)  \(\leftrightarrow\) \(-c≦a≦c\))
⑧\(|a|>c\) \(\leftrightarrow\) \(a<-c\) または \(a>c\)
(\(|a|≧c\) \(\leftrightarrow\) \(a≦-c\) または \(a≧c\))

数直線を考えると明らかです。

不等式証明 絶対値

なお⑥~⑧は、\(c=0\)のときも成り立ちます。

⑥は「\(|a|=0\) \(\leftrightarrow\) \(a=±0\)」
⑦は「\(|a|<0\) \(\leftrightarrow\) \(-0<a<0\)」(\(a\)は存在しない)
⑧は「\(|a|>0\) \(\leftrightarrow\) \(a<0\) または \(a>0\)」(\(a\)は\(0\)以外のすべての実数)

 

 

 

(例題1)次の不等式を証明せよ。
(1)\(|a+b|≦|a|+|b|\)
(2)\(|a|-|b|≦|a+b|\)

 

\(|a|\)は0以上の値で、さらに絶対値の2乗は記号が外れるので、2乗と相性がいいです。

(解答)
(1)
\((|a|+|b|)^2-|a+b|^2\)
\(=(|a|+|b|)(|a|+|b|)-(a+b)^2\)
\(=|a|^2+2|a||b|+|b|^2-(a+b)^2\)
\(=a^2+2|ab|+b^2-(a^2+2ab+b^2)\)
\(=2(|ab|-ab)\)\(≧0\) (\(|ab|≧ab\)は上記性質③より)

よって、\(|a+b|^2≦(|a|+|b|)^2\) であり
\(|a+b|≧0\), \(|a|+|b|≧0\) だから

\(|a+b|≦|a|+|b|\)
等号成立は
\(|ab|=ab\) のときつまり\(ab≧0\) のとき

 

(別解)

性質③の2つの不等式より、\(-|a|≦a≦|a|\)が成り立つことを利用します。

\(-|a|≦a≦|a|\)・・・(A), \(-|b|≦b≦|b|\)・・・(B)より、辺々足すと
\(-(|a|+|b|)≦a+b≦|a|+|b|\)

よって、\(|a+b|≦|a|+|b|\) (上記性質⑦より)

等号成立は、(A)(B)の左側両方 または 右側両方の等号が成立するときなので
\(a≦0\)かつ\(b≦0\) または \(a≧0\) かつ \(b≧0\)

 

(2)

(1)と同様に2乗をとって解くこともできますが、(1)を利用して拡張してみます。

(1)の不等式で、\(a\)のかわりに\(a+b\)、\(b\)のかわりに\(-b\)とおくと

\(|(a+b)-b|≦|a+b|+|-b|\)

よって、\(|a|≦|a+b|+|b|\) であるから
\(|a|-|b|≦|a+b|\)

等号成立は、(1)での\(ab≧0\)の\(a\)を\(a+b\)、\(b\)を\(-b\)とすればよいので
\((a+b)(-b)≧0\) つまり \(b(a+b)≦0\) のとき。

 

(別解)2乗をとる方法
(ア)\(|a|-|b|<0\)のときは、明らかに成り立つ。

(イ)\(|a|-|b|≧0\) のとき
\(|a+b|^2-(|a|-|b|)^2\)
\(=a^2+2ab+b^2-(|a|^2-2|a||b|+|b|^2)\)
\(=a^2+2ab+b^2-(a^2-2|ab|+b^2)\)
\(=2(|ab|+ab)\)\(≧0\) (性質③より)

よって、\((|a|-|b|)^2≦|a+b|^2\)であり
\(|a|-|b|≧0\), \(|a+b|≧0\) だから

\(|a|-|b|≦|a+b|\)

等号は、\(|a|-|b|≧0\) かつ \(|ab|=-ab\) のときであり
\(|a|≧|b|\) かつ \(ab≦0\) のとき。

 

(2)の2つの解法の等号成立条件が違うように見えますが、実は同じことを言っています。(例えば\(a,b\)平面に条件を満たす\(a,b\)の領域を図示するなどで分かる)

 

(1)(2)の不等式をあわせると
\(|a|-|b|≦|a+b|≦|a|+|b|\) (三角不等式)
となります。これは覚えてしまってもよいです。

 

 

(例題2)
\(|x|<1\), \(|y|<1\) のとき、次の不等式を証明せよ。
\(|\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}|<1\)

 

 

(解答1)2乗する方法

まずは2乗する方法から。\(|1+xy|>0\)なので証明したい不等式を、\(|x+y|<|1+xy|\)と変形してこれを示します。

\(|\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}|<1\) \(\leftrightarrow\) \(|x+y|<|1+xy|\) なので、\(|x+y|<|1+xy|\)を証明すればよい。

\(|1+xy|^2-|x+y|^2\)
\(=(1+xy)^2-(x+y)^2\)
\(=(x^2y^2+2xy+1)-(x^2+2xy+y^2)\)
\(=x^2y^2-x^2-y^2+1\)
\(=(x^2-1)(y^2-1)\)

ここで、\(|x|<1\), \(|y|<1\) より、\(x^2<1\), \(y^2<1\) だから
\((x^2-1)(y^2-1)>0\)

よって、\(|x+y|^2<|1+xy|^2\)

\(|x+y|≧0\),\(|1+xy|≧0\) より
\(|x+y|<|1+xy|\)

以上から \(|\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}|<1\) である。

 

(解答2)証明したい不等式の絶対値を外す変形をする方法
\(-1<\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}<1\) を示すことを考える。

\(1-\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}\)

\(=\displaystyle\frac{xy+1-x-y}{1+xy}\)

\(=\displaystyle\frac{(x-1)(y-1)}{1+xy}\)・・・(i)

ここで、\(|x|<1\), \(|y|<1\) より、\(x<1\),\(y<1\)。
また、\(|xy|<1\)だから \(-1<xy\)

ゆえに、\((x-1)(y-1)>0\), \(1+xy>0\) であるから (i)\(>0\)

よって、\(\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}<1\)

 

次に
\(\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}-(-1)\)

\(=\displaystyle\frac{x+y+xy+1}{1+xy}\)

\(=\displaystyle\frac{(x+1)(y+1)}{1+xy}\)・・・(ii)

ここで、\(|x|<1\), \(|y|<1\) より、\(-1<x\),  \(-1<y\)。

ゆえに、\((x+1)(y+1)>0\), \(1+xy>0\) であるから (ii)\(>0\)

よって、\(-1<\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}\)

 

以上から、\(-1<\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}<1\)

したがって、\(|\displaystyle\frac{x+y}{1+xy}|<1\)

 

 

 

以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見て頂きありがとうございました。

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