チェビシェフの多項式

チェビシェフの多項式について見ていきます。

 

・チェビシェフの多項式(\(\cos nθ\))
\(\cos2θ\),\(\cos3θ\),\(\cos4θ\)・・・を加法定理によって展開すると

\(\cosθ=\cosθ\)
\(\cos2θ=2\cos^2θ-1\)
\(\cos3θ=4\cos^3θ-3\cosθ\)
\(\cos4θ=8\cos^4θ-8\cos^2θ+1\)
(\(\cos4θ=2\cos^22θ-1\)より)

となります。勘のいい方なら気づいたと思いますが、

\(\cosθ\)は\(\cosθ\)の1次式(\(\cosθ\)そのもの)
\(\cos2θ\)は\(\cosθ\)の2次式
\(\cos3θ\)は\(\cosθ\)の3次式
\(\cos4θ\)は\(\cosθ\)の4次式

で表されています。これらのことから\(n\)を自然数とするとき
「\(\cos nθ\)は\(\cosθ\)の\(n\)次式で表される」・・・①
のではないかと予想できます。

(※以下、漸化式や数学的帰納法の知識が必要な部分がでてきます。分からない方は、\(\cos nθ\)は\(\cosθ\)の\(n\)次式で表されることをおさえてください。\(\sin nθ\)については予想のところだけ見てください)

①が成り立つことの証明

単純に\(\cos nθ\)が\(n\)次式であることは示せませんが、となり同士の\(nθ\),\((n+1)θ\)などの関係は加法定理等を用いれば分かるので漸化式を立てます。\(n\)が自然数であることも含めて、漸化式と相性のいい数学的帰納法で証明します。

数学的帰納法で証明するために、\(\cos nθ\) についての漸化式を考える。
\(\cos(n+1)θ\)からスタートしてもよいですが、式を変形すると最終的に\((n-1)θ\)が表れるので\((n+2)θ\)からスタートします。

\(\cos(n+2)θ\)
\(=\cos\{(n+1)+1\}θ\)
\(=\cos(n+1)θ\cosθ-\sin(n+1)θ\sinθ\)
(積和の公式より2項目を変形して)
\(=\cos(n+1)θ\cosθ+\displaystyle\frac{1}{2}(\cos(n+2)θ-\cos nθ)\)

よって
\(\cos(n+2)θ\)
\(=\cos(n+1)θ\cosθ+\displaystyle\frac{1}{2}(\cos(n+2)θ-\cos nθ)\)
の両辺を2倍して、移項して整理すると

\(\cos(n+2)θ\)
\(=2\cos(n+1)θ\cosθ-\cos nθ\)・・・②

(1)\(n=1,2\) のとき
\(\cosθ=\cosθ\)
\(\cos2θ=2\cos^2θ-1\)
だから、成り立つ。

(2)\(n=k,k+1\) のとき、\(\cos kθ\),\(\cos(k+1)θ\)が、\(\cosθ\)の\(k,k+1\)次式で表されると仮定する。
漸化式②より、
\(\cos(k+2)θ\)\(=2(k+1次式)\cosθ-(k次式)\)
となるので、\(\cos(k+2)θ\)は\(\cosθ\)の\(k+2\)次式となる。

(1),(2)よりすべての自然数\(n\)で題意が成り立つ。

 

なお \(\cosθ=x\) とおいて、\(\cos nθ\)の多項式を\(C_n(x)\)と表すと漸化式②は
\(C_{n+2}(x)=2xC_{n+1}(x)-C_n(x)\)
と表され、\(x\)の\(n\)次式である\(C_n(x)\)を第一種チェビシェフの多項式と呼びます。

 

 

・チェビシェフの多項式(\(\sin nθ\))
\(\sin nθ\)も同様の議論ができないかを考えてみると、\(n=2\)のとき
\(\sin2θ=2\sinθ\cosθ\)
より、この段階で\(\sinθ\)の\(n\)次式では表すことができないことが分かります。
しかし、\(n=1,2,3,4\)の場合を次のように変形することである規則性が見えてきます。

\(\sinθ=\)\(\sinθ\)\(\cdot1\)
\(\sin2θ=\)\(\sinθ\)\(\cdot2\cosθ\)
\(\sin3θ=\)\(\sinθ(3-4\sin^2θ)\)\(=\)\(\sinθ\)\((4\cos^2θ-1)\)
\(\sin4θ=\)\(2\sin2θ\cos2θ\)\(=\sinθ(4\cosθ\cos2θ)\)\(=\)\(\sinθ\)\((8\cos^3θ-4\cosθ)\)

これらの式から
「\(\sin nθ\)は\(\sinθ\)\(\cosθ\)の\(n-1\)次式の積で表される」
ことが予想されます。

(証明)

\(\cos nθ\)の場合とほぼ同じです。

\(\sin(n+2)θ\)
\(=\sin(n+1)θ\cosθ+\cos(n+1)θ\sinθ\)
\(=\sin(n+1)θ\cosθ+\displaystyle\frac{1}{2}(\sin(n+2)θ-\sin nθ)\)

したがって
\(\sin(n+2)θ\)
\(=2\sin(n+1)θ\cosθ-\sin nθ\)・・・③

以下帰納法で証明していく(概略のみ)
\(n=1,2\) で成立して
\(n=k,k+1\) で\(\sin kθ\)が 「\(\sinθ\)と\(\cosθ\)の\(k-1\)次式の積」、\(\sin(k+1)θ\)が 「\(\sinθ\)と\(\cosθ\)の\(k\)次式の積」で表さることを仮定する。③より\(\sin(k+2)θ\)は「\(\sinθ\)と\(\cosθ\)の\(k+1\)次式の積」となる。

 

なおこちらも \(\cosθ=x\) とおいて、\(\cosθ\)の\(k-1\)次式を\(S_{n-1}(x)\)と表すと漸化式③は
\(S_{n+1}(x)\sinθ=2xS_{n}(x)\sinθ-S_{n-1}(x)\sinθ\)
\(\sinθ≠0\)のとき、両辺を\(\sinθ\)で割ると
\(S_{n+1}(x)=2xS_{n}(x)-S_{n-1}(x)\)・・・(※)
と表され、\(x\)の\(n\)次式である\(S_n(x)\)を第二種チェビシェフの多項式と呼びます。

 

(※)を\(n→n+1\)とすれば分かりますが、\(S_n(x)\)についての漸化式は、\(C_n(x)\)のときと全く同じです。また、\(\sin nθ\)の場合でも\(\cosθ\)についての多項式になることに注意してください。

 

 

(例題)
(1)\(\cos5θ=f(\cosθ)\) をみたす多項式\(f(x)\)を求めよ。
(2)\(\cos\displaystyle\frac{π}{10}\cos\displaystyle\frac{3π}{10}\cos\displaystyle\frac{7π}{10}\cos\displaystyle\frac{9π}{10}\)\(=\displaystyle\frac{5}{16}\) を示せ。

 

 

(解答)
(1)

加法定理を使って頑張って\(\cosθ\)だけの式にします。
ただ、答えが5次式になることを知っているだけでも気持ちとしては楽です。

\(\cos5θ\)
\(=\cos(3θ+2θ)\)
\(=\cos3θ\cos2θ-\sin3θ\sin2θ\)
\(=(4\cos^3θ-3\cosθ)(2\cos^2θ-1)\)\(+(4\sin^3θ-3\sinθ)2\sinθ\cosθ\)
\(=8\cos^5θ-10\cos^3θ+3\cosθ\)\(+2\cosθ(4\sin^2θ-3)\sin^2θ\)
\(=8\cos^5θ-10\cos^3θ+3\cosθ\)\(+2\cosθ(1-4\cos^2θ)(1-\cos^2θ)\)
\(=16\cos^5θ-20\cos^3θ+5\cosθ\)

したがって \(\cosθ=x\) とすれば
\(f(x)=16x^5-20x^3+5x\)

(2)

(1)との関連性を考えます。
\(θ=\displaystyle\frac{π}{10},\displaystyle\frac{3π}{10},\displaystyle\frac{7π}{10},\displaystyle\frac{9π}{10}\) とおくと、これら4つの角について \(\cos5θ=0\) が成り立つので、\(x=\cos\displaystyle\frac{π}{10},\cos\displaystyle\frac{3π}{10},\cos\displaystyle\frac{7π}{10},\cos\displaystyle\frac{9π}{10}\) は\(f(x)=0\)の解で、この4解はすべて異なります(さらに0でない)。なお\(f(x)=0\)は5次方程式なのでもう1つ解があるはずですが、それは\(x=0\)であることは式を見ればすぐにわかります。
結局示したい式の左辺は、\(f(x)=0\)を\(x\)で割った4次方程式の4解の積で、あとは解と係数の関係を使えばよいことになります。4次式の解と係数の関係は覚えてない人が多いおと思うので、3次式や2次式の公式を導いたときと同様に、因数定理により因数分解された式を展開して両辺を比べます。

\(θ=\displaystyle\frac{π}{10},\displaystyle\frac{3π}{10},\displaystyle\frac{7π}{10},\displaystyle\frac{9π}{10}\) とおくと

\(\cos5θ=0\)が成り立つので、

\(x=\cos\displaystyle\frac{π}{10},\cos\displaystyle\frac{3π}{10},\cos\displaystyle\frac{7π}{10},\cos\displaystyle\frac{9π}{10}\)・・・① は

\(f(x)=0\)の解である。

さらに、\(\cosθ\)は \(0≦θ≦π\) の範囲で単調減少なので、
これら4解は全て異なり、\(θ≠\displaystyle\frac{π}{2}(=\displaystyle\frac{5π}{10})\)だから0でない。

\(f(x)=0\) は
\(x(16x^4-20x^2+5)=0\) であり
①は \(16x^4-20x^2+5=0\) の4解。

因数定理により
\(16x^4-20x^2+5\)
\(=16(x-\cos\displaystyle\frac{π}{10})(x-\cos\displaystyle\frac{3π}{10})(x-\cos\displaystyle\frac{5π}{10})(x-\cos\displaystyle\frac{9π}{10})\)

定数項を比較して
\(\cos\displaystyle\frac{π}{10}\cos\displaystyle\frac{3π}{10}\cos\displaystyle\frac{7π}{10}\cos\displaystyle\frac{9π}{10}\)\(=\displaystyle\frac{5}{16}\)

 

 

 

以上になります。お疲れ様でした。
ここまで見て頂きありがとうございました。
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