定積分と不等式①

関数の大小と定積分の大小の関係について見ていきます。

 

・関数の大小と定積分の大小

定積分不等式① 1

閉区間 \([a,b]\) で連続な関数\(f(x)\) が、この区間で常に \(f(x)≧0\) のとき、定積分が面積が表すことから次のことが成り立ちます。等号は、面積が\(0\)よりこの区間で常に \(f(x)=0\) のときに限り成立します。

(関数の大小と定積分1)
\([a,b]\) で常に \(f(x)≧0\) ならば
\(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≧0\)

 

またこの定理を利用すると、閉区間 \([a,b]\) で連続な関数\(f(x),g(x)\)について次のことが成り立つことが分かります。等号は、この区間で常に \(f(x)=g(x)\) のときに限り成立します。

(関数の大小と定積分2)
\([a,b]\) で常に \(f(x)≧g(x)\) ならば
\(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≧\displaystyle\int_{a}^{b}g(x)dx\)

つまり、関数の大小関係がそのまま定積分の大小関係になります。

定積分不等式① 2

(証明)
\(h(x)=f(x)-g(x)\) とおくと \(h(x)≧0\) だから
\(\displaystyle\int_{a}^{b}h(x)dx≧0\)

よって
\(\displaystyle\int_{a}^{b}\{f(x)-g(x)\}dx≧0\)
だから
\(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≧\displaystyle\int_{a}^{b}g(x)dx\)

等号成立は区間で常に \(h(x)=0\) のとき、つまり 常に \(f(x)=g(x)\) のとき。

なお、上図では\(f(x),g(x)\)がともに正であるような位置になっていますが、別に負でも構いません。

 

そして2つ目の定理から、次のことが成り立つことも分かります。
閉区間\([a,b]\)で連続な関数\(f(x)\)について、この区間での最小値と最大値をそれぞれ\(m,M\)とするとき

\(m(b-a)≦\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≦M(b-a)\)

定積分不等式① 3

(証明)
区間\([a,b]\)で常に \(m≦f(x)≦M\) だから
\(\displaystyle\int_{a}^{b}mdx≦\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≦\displaystyle\int_{a}^{b}Mdx\)

よって
\(m(b-a)≦\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)dx≦M(b-a)\)

 

これらの定理のポイントは、積分計算が困難な場合に、簡単な積分計算を使って不等式評価できるところです。特に定積分に絡む極限計算で有効になります。(はさみうちの原理等を使うことになる)

 

 

(例題)
(1)自然数\(n\)に対して、\(\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{x}dx\) を求めよ。また、
\(\displaystyle\frac{1}{n+1}<\log(n+1)-\log n<\displaystyle\frac{1}{n}\)
を示せ。

(2)\(2\)以上の自然数\(n\)に対して
\(\log(n+1)<\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}<1+\log n\)
を示せ。

(3)\(2\)以上の自然数\(n\)に対して
\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}}>\displaystyle\frac{1}{e}\log(n+1)\)
を示せ。

 

 

(解答)
(1)

不等式の中辺は \(n≦x≦n+1\) における \(\displaystyle\frac{1}{x}\) の定積分です。よってこの範囲での \(f(x)=\displaystyle\frac{1}{x}\) の最小値と最大値を考えて、不等式ではさんで積分すれば目的の不等式を示すことができます。面積の大小で考えてもよいです。

定積分不等式① 例題1-1

\(\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{x}dx=[\log|x|]_{n}^{n+1}\)

\(=\log(n+1)-\log n\)

また \(n≦x≦n+1\) のとき
\(\displaystyle\frac{1}{n+1}≦\displaystyle\frac{1}{x}≦\displaystyle\frac{1}{n}\)・・・①

①の等号は常には成立しないので
\(\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{n+1}dx<\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{x}dx<\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{n}dx\)

よって
\(\displaystyle\frac{1}{n+1}\displaystyle\int_{n}^{n+1}dx<\displaystyle\int_{n}^{n+1}\displaystyle\frac{1}{x}dx<\displaystyle\frac{1}{n}\displaystyle\int_{n}^{n+1}dx\)
となるから

\(\displaystyle\frac{1}{n+1}<\log(n+1)-\log n<\displaystyle\frac{1}{n}\)

 

(2)

こちらも面積で考えてもよいですが、(1)の不等式を利用すると数式でスッキリ示すことができます。(1)では中辺が、(2)の不等式では両側が積分に対応していることに注意してください。

(1)より、\(k\)を自然数として
\(\displaystyle\frac{1}{k+1}<\log(k+1)-\log k<\displaystyle\frac{1}{k}\)・・・②

②の左側の不等式で、\(k=1,2,\cdots,n-1\) として辺々加えると (目的の不等式に近づけるために\(n-1\)まで加える。この\(n-1\)があるので、\(n≧2\) の条件がついている)

\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}\displaystyle\frac{1}{k+1}<\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}\{\log(k+1)-\log k\}\)

よって
\(\displaystyle\sum_{k=2}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}<\log n-0\)

両辺に\(1\)を加えて
\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}<1+\log n\)

また、②の右側の不等式で、\(k=1,2,\cdots,n\) として辺々加えると
\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\{\log(k+1)-\log k\}<\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}\)

よって
\(\log(n+1)<\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}\)

したがって
\(\log(n+1)<\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}<1+\log n\) (\(n≧2\))
が成り立つ。

(面積だと)
右上と左下の短冊は同じ面積です(ズレているだけ)。

定積分不等式① 例題1-2

定積分不等式① 例題1-3

 

(3)

\(ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}=e^{1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{k}}\)
なので、(2)の不等式を使えばうまくいきそうです。最初に右左のどちらを使うかは、目的の不等式では逆数になっていることを考慮すると、右側になることが分かります。

(2)の右側の不等式より、\(k≧2\) のとき
\(1+\displaystyle\frac{1}{2}+\displaystyle\frac{1}{3}+\cdots+\displaystyle\frac{1}{k}<1+\log k\)
だから

\(ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}=e^{1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{k}}<e^{1+\log k}=e\cdot e^{\log k}=ek\)

よって逆数をとると、\(k=1\) のときも含めて
\(\displaystyle\frac{1}{ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}}≧\displaystyle\frac{1}{ek}\) (等号は \(k=1\) のときのみ成立)

\(k=1\) から \(k=n\) まで変化させて辺々加えると
\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}}>\displaystyle\frac{1}{e}\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}\)・・・③

したがって③と(2)の左側の不等式
\(\log(n+1)<\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{k}\)
より

\(\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\displaystyle\frac{1}{ee^{\frac{1}{2}}e^{\frac{1}{3}}\cdots e^{\frac{1}{k}}}>\displaystyle\frac{1}{e}\log(n+1)\) (\(n≧2\))

 

 

以上になります。お疲れさまでした。
ここまで見て頂きありがとうございました。
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